下垂体疾患
脳の中心に垂れ下がっているように見える下垂体は、径1cmの小さな内分泌臓器です。下垂体は前葉と後葉に分かれ、前葉からは副腎皮質ホルモン、甲状腺ホルモン、性腺ホルモンのそれぞれの分泌を促すホルモンや成長ホルモン、乳汁分泌ホルモン(プロラクチン)が分泌され、後葉からは抗利尿ホルモンが分泌されます。下垂体ホルモンの分泌に過不足があると、さまざまな体調の異常が現れてきます。
下垂体のホルモン分泌が増加する疾患には先端巨大症、クッシング病、プロラクチノーマなどがあります。逆にホルモン分泌が低下する病気には下垂体機能低下症や中枢性尿崩症などがあります。また、下垂体腫瘍は症状としては視力・視野障害があり、良性が多く、時間をかけてゆっくり増大する特徴があります。
甲状腺疾患
甲状腺は、のどぼとけ(甲状軟骨)のすぐ下にあり、気管を前から取り囲むように位置する蝶のような形をした小さな内分泌臓器です。甲状腺から分泌されるホルモン(甲状腺ホルモン)には体内の代謝を促進する重要な働きがあります。
甲状腺疾患としては、甲状腺ホルモンが過剰になったり(甲状腺機能亢進症)、不足したりする(甲状腺機能低下症)ことで体調に変化が起きる病気と甲状腺腫瘍があげられます。
甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)
甲状腺ホルモンは、身体全体の代謝を亢進するホルモンです。
甲状腺ホルモンが過剰に分泌される甲状腺機能亢進症では、動悸、多汗、疲れやすい、体重減少、眼球突出、手足のふるえ、甲状腺が腫れるなど代謝の亢進に伴う症状が現れます。代表的疾患には、バセドウ病と亜急性甲状腺炎、無痛性甲状腺炎があります。
バセドウ病は抗TSH受容体抗体(TRAb)が甲状腺を刺激して、多量の甲状腺ホルモンを分泌させる病気です。甲状腺機能亢進症の原因の90%ほどを占めると言われています。甲状腺ホルモンの合成を抑えるお薬で治療しますが、難治性の場合は放射線治療や手術が選択される場合もあります。
亜急性甲状腺炎は何らかのウイルス感染が原因で発症し、甲状腺の痛み、発熱、血液中の甲状腺ホルモンの上昇を認める病気です。亜急性甲状腺炎は基本的には一過性の病気であり、症状は1~2ヶ月ほどの経過で落ち着きます。
無痛性甲状腺炎は、分娩後の女性に多く発症する病気で、こちらも自然に甲状腺ホルモンの数値は下がりますが、下がり過ぎることで甲状腺機能低下症を合併することもあり、注意が必要です。
甲状腺機能低下症(橋本病など)
甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンの分泌が低下する病態で、体重増加、むくみ、疲れやすい、寒がり、無気力、皮膚の乾燥、脱毛など代謝の減退に伴う症状が現れます。無痛性甲状腺炎の経過で生じることもありますが、大半は橋本病が原因です。
橋本病は、甲状腺を攻撃する自己抗体が産生されてしまう病気です。攻撃された結果、甲状腺は慢性的に炎症を起こし、甲状腺ホルモンの分泌が低下します。
橋本病を完治させるお薬はありませんが、足りなくなった甲状腺ホルモンをお薬で補充することができます。治療せずに放置すると、コレステロールも代謝されず、脂質異常症を合併するため、将来的に動脈硬化を起こす危険性が高まります。
甲状腺腫瘍
甲状腺腫瘍は無症状のことが多いため、頸部のしこりに偶然気づいたり、健診などで指摘されたりする方が増えています。多くは良性腫瘍であり、腺腫様甲状腺腫(せんしゅようこうじょうせんしゅ)、濾胞腺腫(ろほうせんしゅ)、のう胞などが含まれます。悪性腫瘍(甲状腺がん)は、乳頭がんが全体の90%以上を占めているといわれています。甲状腺に腫瘍がみつかった場合、良性、悪性を判断するために速やかな受診をお勧めします。
副甲状腺疾患
副甲状腺疾患の多くは、副甲状腺機能亢進症です。副甲状腺ホルモンの過剰な分泌によって、血液中のカルシウム濃度が上昇し、尿路結石、骨粗鬆症や高カルシウム血症による様々な症状(食欲不振、悪心、嘔吐、便秘、全身倦怠感、のどの渇き、多飲、多尿、精神症状など)を引き起こします。血液中・尿中のカルシウムと副甲状腺ホルモン(PTH)が高値になることで診断ができます。
副腎疾患
副腎は腎臓の上にある小さな器官であり、ホルモンを作る働きをしています。副腎に腫瘍ができ、ホルモンが過剰に産生されると、太ってきたり、高血圧になったり、糖尿病になるなど様々な症状が起きてきます。副腎ホルモンは人にとって必要不可欠な物質であり、副腎の働きが悪くなる病気は生命に関わることもあります。血液検査のほか、ホルモン負荷試験や各種画像診断等で正確に診断することが重要です。代表的な副腎疾患としては、原発性アルドステロン症、クッシング症候群、褐色細胞腫、副腎偶発腫瘍、副腎皮質機能低下症などがあげられます。
内分泌性高血圧症
日本人の高血圧症の約8~9割が本態性高血圧症(原因をひとつに定めることのできない高血圧症)といわれていますが、なかには別の病気があるために血圧が高くなる二次性高血圧症があります。その多くは内分泌疾患や腎臓病によるものです。とくに治療困難な高血圧症の中には、内分泌性高血圧症(先端巨大症、クッシング症候群、原発性アルドステロン症、褐色細胞腫など)が潜んでいる可能性が高く、糖尿病を合併することもあります。このような場合、もとにある内分泌疾患を早めに治療することで、高血圧症や糖尿病が治癒することもあります。